工場窃盗の裏に潜む中国の倫理崩壊 日本企業が学ぶべき「リスクの現実」


2025年10月30日14:00

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工場窃盗の裏に潜む中国の倫理崩壊 日本企業が学ぶべき「リスクの現実」

工場窃盗の裏に潜む中国の倫理崩壊 日本企業が学ぶべき「リスクの現実」

日経ビジネスが報じたように、中国の製造業ではいま、工場内での窃盗が深刻な社会問題となっている。電信柱に「電話番号だけ」が書かれた怪しいメモが貼られ、それが「盗品の買い手」の連絡先だった──そんな光景が現実にある。

このような環境の中で、ミスミグループが展開する「MISUMI floow(ミスミフロー)」という備品自販機型の管理システムが、中国の工場で高い評価を得ているという。もともとは業務効率化を目的に開発されたシステムだが、中国ではむしろ「ガバナンス対策」として活用されている。つまり、中国では従業員の倫理や信頼に頼ることができない社会であり、それが日本企業のビジネスにも直接影響しているということだ。

■ 「性弱説」が支配する中国工場の現実

ミスミフローは、ネジや計測器などの間接材を顔認証で管理し、誰がいつどれだけ持ち出したかを自動記録する仕組みを持つ。日本では「効率化」のためのDX(デジタル・トランスフォーメーション)として導入されるが、中国では「盗難対策」こそが導入の理由である。

そこには、「人は弱く、機会があれば不正を働く」という“性弱説”の思想が根づいている。実際、中国では工場従業員が部品を盗み、近隣で現金化する流通ルートが半ば公然と存在する。こうした行為は「生活費の足し」や「臨時収入」として社会的に黙認されることすらある。

中国社会では「ルールを破ること=悪」ではなく、「見つからずにやること=賢さ」とされる風潮が根強い。その背景には、国家主導の監視社会と汚職構造がある。上が腐敗しているから下も不正を正当化する。日本のように「信頼を前提とした労使関係」が成立しない社会構造そのものが、中国リスクの本質なのだ。

■ 「性善説」で動く日本が直面する危うさ

一方の日本では、いまだに多くの企業が「従業員を信頼することが前提」という“性善説経営”を続けている。だが、KPMGの調査によると、過去3年間で32%の企業が内部不正を経験しており、その7割が「金銭・物品の着服」や「経費不正」だった。

つまり、日本でも不正は決して他人事ではない。それでも日本企業の多くは、中国的な「性弱説管理」を拒否し、倫理教育や意識改革に頼り続けている。この“意識の甘さ”こそ、今後の国際競争における致命的なリスクになりかねない。

日本の工場やオフィスは、まだ「人を疑わない仕組み」によって運営されている。だが中国に進出している日系企業は、そこで現実を知る。「管理しなければ盗まれる」「監視しなければ流出する」──それがグローバルの現場での真実である。

中国の従業員に日本式の“信頼文化”をそのまま持ち込んでも、現地では通用しない。それどころか、日本企業が“お人よし”であることを見抜いた中国側のサプライヤーが、不正供給や情報漏洩の温床となるケースも少なくない。

■ 中国の倫理崩壊がもたらす「安全保障リスク」

この問題は単なる経営リスクではなく、国家安全保障にも直結する構造的脅威だ。中国の「窃盗文化」は、工場や企業のレベルにとどまらず、国家ぐるみの「技術流出」として機能している。

多くの日本企業が、中国に技術やノウハウを持ち込んだ結果、現地の下請けや元従業員がその技術を盗み、模倣製品を世界に輸出している。知的財産権の侵害、産業スパイ、企業情報の窃取──これらは日常的に行われている。

それを可能にしているのが、「個人の倫理より国家の利益を優先する」という中国的思考である。中国の法制度は共産党によって恣意的に運用されるため、日本企業が法的手段で正義を貫くことは極めて困難だ。

結果として、日本企業は「泣き寝入り」するか、「撤退」を選ぶしかない。この構図は、単に企業経営の問題ではなく、日本が中国経済に依存するリスクの象徴といえる。

■ 日本企業が学ぶべき「自動化の防衛」

ミスミの「自販機型管理システム」は、単なるDX技術ではなく、倫理の崩壊を防ぐためのテクノロジー防壁だ。中国の現場では、人の良心ではなく「機械が人を制御する」時代がすでに始まっている。

顔認証、重量センサー、自動記録――これらは単なる効率化ツールではなく、「不正を許さない社会構造」を作る技術でもある。

今後、日本企業もこの“性弱説型マネジメント”を部分的に取り入れざるを得なくなるだろう。特にサプライチェーンの国際化が進むなかで、海外の協力工場や物流パートナーを「信頼」に頼って管理することはもはや危険だ。AIによる監視、ブロックチェーンによる流通追跡、バイオメトリクス認証など、技術を用いた倫理管理が不可欠になる。

■ 中国を見て、未来の日本を守る

日本は長い間、「人を信じる文化」で成功してきた。しかし、グローバル市場では“善意”はルールではなく、になる。中国が示しているのは、モラルを失った社会がいかにして国家規模で不正を制度化できるかという冷徹な現実だ。

中国の工場で発生している窃盗問題は、単なる労務管理の話ではない。それは「モラルの崩壊が経済を蝕み、最終的に国際秩序を揺るがす」という警鐘である。そして、日本はその影響圏の中にいる。

日本企業が今後、中国リスクを真に理解し、テクノロジーと倫理の両面から防衛を強化できるかどうか。それが、日本の産業と民主主義を守るための分岐点となるだろう。


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