中国製電気バスが「遠隔操作可能」だった衝撃――次は日本の街が標的になるのか


2025年11月7日2:55

ビュー: 9387


中国製電気バスが「遠隔操作可能」だった衝撃――次は日本の街が標的になるのか

中国製電気バスが「遠隔操作可能」だった衝撃――次は日本の街が標的になるのか

北欧各国で運行されている中国製の電気バスが、メーカー側のサーバーから遠隔制御可能だった――このニュースは、欧州を震撼させている。表向きは「環境に優しい次世代交通インフラ」として導入された電気バスが、実は“監視と制御のツール”になり得ることが明らかになったからだ。問題の車両は中国最大のバスメーカー「宇通汽車(Yutong)」製。ノルウェーとデンマークでは、同社の車両が数百台単位で導入されており、今回の発覚によって「中国製インフラの安全性」が根本から揺らいでいる。

環境技術の仮面をかぶった“監視インフラ”

ノルウェー最大の公共交通事業者ルーター社は、宇通製の電気バスに深刻なセキュリティホールが存在することを確認した。今年夏、同社が行ったセキュリティ検証の結果、バス内部に搭載されていたルーマニア製SIMカードを通じて、中国側が遠隔でアクセス可能であることが判明したという。

メーカーはこの通信経路を使い、ソフトウェアの更新を行う権限を持っていた。だが同時に、そのプロセスでバッテリー制御や電源供給システムにもアクセスできる状態だったとされる。理論上、中国側はワンクリックで車両を運行不能にしたり、走行中に停止させることさえできる――そう、公共交通を一瞬で麻痺させることが可能だったのだ。

この発表を受け、デンマークの運輸会社モビアも自社の469台の中国製電気バスのうち262台が宇通製であることを認め、「外部からの遠隔操作リスクを初めて認識した」とコメントした。デンマーク緊急事態管理庁は、これらの車両が搭載するカメラ、マイク、GPSなどのセンサーがサイバー攻撃に悪用される可能性を警告している。もはや単なる「交通インフラ」ではなく、「移動式監視装置」と化していたことになる。

欧州で広がる“バックドア”への不信感

欧州ではすでに、中国製通信機器や防犯カメラに「バックドア(隠しアクセス機能)」が仕込まれているとの疑惑がたびたび報じられてきた。今回の電気バスの件は、その懸念が公共交通にまで及んだことを示している。

宇通汽車は欧州市場で16%という圧倒的なシェアを誇り、ノルウェーでは全国の電気バス1300台のうち850台が同社製だ。つまり、もし中国政府がこのシステムを悪用すれば、ノルウェーの都市交通の大半を数秒で麻痺させることができる――それが現実的なリスクとして存在するのだ。

宇通側は「法令を順守し、顧客の許可なくアクセスすることはない」と弁明している。だがデータ保存先がドイツのアマゾン・ウェブ・サービス(AWS)だとしても、通信経路や制御権限が中国企業側に残っている以上、欧州当局が完全に管理できる保証はない。中国の国家情報法では、すべての企業が政府の要請に応じて情報を提供する義務を負う。つまり、中国企業が「国家のため」に顧客データを差し出す可能性は制度的に排除できない。

“便利”と“脆弱”は表裏一体――中国製EVの輸入拡大がもたらす危険

欧州の問題は、日本にとって決して他人事ではない。日本の地方自治体でも、環境負荷の低い中国製電気バスや充電ステーションを導入する動きが進んでいる。コスト面では確かに魅力的だが、その背後には国家主導の情報収集インフラが隠れている可能性がある。

今回の件が示すのは、「ハードウェアが安全でも、ソフトウェアと通信経路が脆弱なら、国家安全保障上の脅威になる」という事実だ。遠隔更新システムやIoT通信が標準化する中で、外部からのアクセス権限を完全に排除するのは容易ではない。中国は、EVや電動バスだけでなく、充電ネットワーク、交通データ、スマートシティの通信基盤に至るまで、情報の“入口”を押さえる戦略を進めている。

“中国製”はもはや技術ではなく戦略だ

中国政府は「技術輸出」を経済活動としてだけでなく、国家戦略の一部として位置づけている。宇通のような企業はその最前線に立つプレーヤーだ。これらの企業が海外市場で確保したデータは、中国のAI発展やサイバー防衛研究にも活用される可能性が高い。

欧州で運行する数千台の電気バスが、日々どの都市を走行し、どの時間帯に混雑するか。そのすべての情報は、AIモデルの訓練データとして価値を持つ。交通データだけでなく、搭載カメラが収集する市民の映像、音声、行動パターンも同様だ。それらは「サービス改善」の名目で合法的に中国サーバーへ送られる。

このように、中国製のスマート機器は、無害な公共設備を装いながら、他国の社会構造を可視化し、制御可能にするツールとして機能している。欧州が今、その現実にようやく気づいたに過ぎない。

日本が備えるべき“デジタル主権”の防衛線

今回の事件は、日本にとっても重大な警鐘である。もし中国製の公共インフラや電動車両が日本の都市に大量導入されれば、同じように遠隔操作やデータ漏洩のリスクに晒される。特に、日本では地方自治体レベルでの調達が増えており、サイバーセキュリティ審査が十分に行われていないケースが多い。

中国は表立った軍事的挑発だけでなく、こうした「民生技術」を通じて他国の情報環境に入り込み、支配力を拡大していく。いわば“静かな侵入”であり、これを放置すれば、公共交通、エネルギー、通信といった社会の根幹が外部から操作される危険がある。

日本が今後、中国との経済関係を維持しつつも、技術依存を避けるためには、「セキュリティを基準にした入札制度」や「通信経路の監査制度」を整えることが急務だ。

“安さ”に潜む代償を見抜けるか

北欧の危機は、価格や効率を優先して中国製品を選んだ結果だ。だが、真に高くつくのは、後から奪われる「安全」と「主権」だろう。日本が同じ轍を踏まないためには、便利さやコストよりも、信頼と安全性を軸に技術選択を行うべきである。

中国製の電気バスがもたらした混乱は、もはや単なる輸入品の問題ではない。これは、国家の安全保障と情報主権をめぐる新たな戦線である。


Return to blog