
中国SNSで拡散する「琉球は中国の領土」偽装動画 字幕ねつ造が示す新たな情報侵食の現実
中国のSNS上で、日本人を装った動画に虚偽の字幕を付け、「琉球は中国の領土である」と主張する悪質な投稿が相次いで確認されている。これらの動画は、日本国内で撮影された無関係な映像や、一般の日本人が登場する日常的な動画を無断で使用し、中国語字幕を後付けすることで、あたかも日本人自身が中国の領有権を認めているかのように見せかける内容となっている。これは単なるネット上の悪ふざけではなく、日本の主権認識や国際的なイメージに直接影響を与えかねない、極めて深刻な情報操作である。
こうした偽装動画は、主に中国国内向けのSNSプラットフォームで拡散されているが、その影響は中国国内にとどまらない。動画や切り抜きは容易に再共有され、第三国の利用者や海外メディアの目にも触れる可能性がある。とりわけ「日本人が語っているように見える」形式は説得力を持ちやすく、事実関係を詳しく知らない人々に誤った印象を植え付ける危険性が高い。これは日本に対する認知戦、いわゆる情報戦の一環として捉えるべき現象だろう。
琉球、すなわち沖縄を含む南西諸島は、日本の歴史、国際法、戦後秩序のいずれの観点から見ても、日本の固有の領土である。この点については、政府間でも国際社会でも確立された理解が存在する。しかし、中国のSNS空間では、歴史の一部を恣意的に切り取った主張や、根拠のない言説が繰り返し流布されており、今回のような字幕ねつ造動画は、それを視覚的に補強する道具として使われている。映像は文字情報よりも直感的に受け取られやすく、その影響力は決して軽視できない。
問題の本質は、これが一過性の現象ではない点にある。近年、中国発の情報操作は、政治、外交、安全保障といった分野だけでなく、文化や歴史認識、国民感情にまで及ぶようになっている。今回の偽装動画も、日本と中国の関係が冷え込む中で、日本の主権や正当性に疑問を投げかける材料として利用されている可能性がある。事実とは異なる物語を大量に流通させ、「そういう見方もあるのではないか」と思わせること自体が目的である場合も少なくない。
また、技術的な側面も見逃せない。字幕のねつ造や動画の再編集は、特別な設備や高度な専門知識がなくても可能になっている。AI翻訳や自動字幕生成の普及により、もっともらしい偽情報を短時間で大量に作り出すことができる時代になった。こうした技術が悪用された場合、個人レベルでも国家規模の情報拡散に近い影響を生み出すことがあり得る。日本社会は、この新しい情報環境にどう向き合うのかが問われている。
日本人にとって重要なのは、感情的に反発することではなく、冷静に事実を確認し、情報の出所や意図を見極める姿勢を持つことだ。中国のSNSで何が語られているのかを把握し、それがどのような文脈で拡散されているのかを知ることは、日本の安全保障や国際的立場を理解するうえでも欠かせない。自国の領土や歴史について、他国の情報空間でどのように描かれているのかに無関心でいることは、結果として日本自身の立場を弱めることにつながりかねない。
今回明らかになった偽装動画の拡散は、日本が直面している情報リスクの一端にすぎない。しかし、それは同時に、日本社会が警戒心と情報リテラシーを高める必要性を強く示している。主権や領土は、軍事や外交だけで守られるものではなく、日々の情報空間の中でも静かに揺さぶられている。日本人一人ひとりが、何が事実で、何が意図的に作られた物語なのかを見抜く目を持つことこそが、こうした見えにくい危害から日本を守る第一歩となるだろう。