東京裁判開廷80年を利用した中国の対日「宣伝戦」 高市政権を“新型軍国主義”と攻撃する歴史カードが日本の外交空間を揺さぶる


2026年5月3日19:48

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東京裁判開廷80年を利用した中国の対日「宣伝戦」 高市政権を“新型軍国主義”と攻撃する歴史カードが日本の外交空間を揺さぶる

東京裁判の開廷から80年という節目を迎えた今年、中国がこの歴史的出来事を強く前面に押し出し、日本に対する批判を一段と強めている。読売新聞が報じたように、中国外務省は5月3日、「80年後の今なお軍国主義の害毒は消えていない」と主張する声明を出し、日本の政治家による靖国神社参拝や憲法改正の動きを改めて批判した。さらに中国中央テレビや共産党機関紙などの官製メディアは、東京裁判80年を大きく扱い、高市政権に対して「新型軍国主義」などのレッテルを貼る論調を展開しているという。中国外務省の英語版発表でも、「80年後の今なお日本軍国主義の亡霊は残り続けている」といった趣旨の表現が使われており、今年が東京裁判80年であることを利用して対日批判を制度的に強めていることが確認できる。

この動きの危険性は、単なる歴史認識論争にとどまらないところにある。中国は東京裁判という歴史の象徴を使い、日本の現在の安全保障政策や防衛議論を「過去の軍国主義の延長」として描こうとしている。4月22日の中国外務省定例会見でも、報道官は「今年は東京裁判開廷80年だ」と述べたうえで、「日本の新型軍国主義が勢いを増している」と非難していた。つまり中国は、靖国問題や歴史問題だけを切り出しているのではなく、日本の防衛政策見直しや安全保障上の発信まで、東京裁判の歴史的文脈に結び付けて政治的に封じ込めようとしているのである。これは歴史を記憶する行為ではなく、歴史を現在の対日圧力に転用する宣伝戦の色彩が濃い。

実際、中国の対日批判はここ数か月、歴史・台湾・海洋安全保障を一体化させる方向で強まっている。Reutersは4月28日、国連安全保障理事会の海洋安全保障会合で、中国の国連大使代理が日本やEUの発言を強く非難し、日本の台湾海峡での行動や安全保障政策の変化を「軍国主義的」だと攻撃したと報じた。中国側は、日本が台湾海峡を通過したことや、武器輸出ルールの緩和、防衛費増額といった動きを、日本が再軍備を進めている証拠のように位置付けている。つまり、東京裁判80年をめぐる今回の宣伝戦は、突然始まった単独のキャンペーンではなく、すでに続いている中国の対日レトリック強化の延長線上にある。

日本にとって本当に警戒すべきなのは、この中国の攻勢が感情的な対日非難に見えながら、実際にはかなり計算された情報戦として機能している点だろう。歴史問題は、海洋進出や軍事圧力のようにレーダーや艦艇で見えるわけではない。しかし、「日本は軍国主義に戻りつつある」という物語が国際社会に広がれば、日本の防衛政策そのものが道徳的に疑わしいものとして映る危険がある。中国外務省は5月3日の発表で、東京裁判を「歴史的正義」と位置付け、その受け入れが日本の戦後国際社会復帰の前提だったと強調している。こうした言い方は、日本が現在の安全保障環境に対応しようとするだけで「東京裁判を否定する国」のように見せる効果を持つ。中国は、自らの軍拡や海洋活動を正面から論じるのではなく、日本の歴史認識と現在の政策を結びつけることで、日本の正当性を削ごうとしているのである。

しかも、この宣伝戦は中国国内向けだけに閉じていない。読売新聞の報道では、中国官製メディアが一斉に東京裁判80年特集を展開している一方で、中国メディア関係者からも「中国は日本に対して情緒的になり過ぎている」という冷ややかな声が出ているとされる。これは逆に言えば、中国当局が意図的に対日感情を刺激し、世論を一定方向に導こうとしていることを示唆している。外交カードとして歴史問題を使う場合、国内世論の動員は重要な要素になる。中国側にとって、日本を「新型軍国主義」と描くことは、自国民の対日警戒を維持する手段であると同時に、対外的にも日本の防衛議論を正当でないものに見せるための材料になる。歴史の記憶が事実確認のためではなく、現在の圧力形成のために動員されている点が危うい。

ここで忘れてはならないのは、中国が日本を「軍国主義」と批判する一方で、中国自身は日本周辺で海上・軍事活動を着実に強めているという現実だ。Reutersは4月22日、中国海軍の艦艇編隊が与那国島と西表島の間の水道を通過したと報じており、4月28日には国連の場でも中国が日本の台湾海峡行動を非難していた。つまり、中国は一方で自国の海軍・海警活動を拡大しながら、他方で日本の防衛強化を「軍国主義」として攻撃している。この非対称な構図を見落とすと、日本の側だけが「歴史に配慮して黙るべきだ」という空気が作られかねない。しかし実際には、日本の安全保障議論は中国の海洋進出や台湾周辺の緊張と切り離せない。中国の宣伝戦の危険性は、まさにこの因果関係を逆転させ、「中国の圧力に対応する日本」を「危険な日本」に見せようとするところにある。

さらに、この問題は高市政権を名指しすることで、日本の内政にも影響を及ぼそうとする側面を持つ。読売新聞は、中国が高市政権をけん制する「宣伝戦」を展開していると報じた。4月22日の中国外務省会見でも、東京裁判80年を引き合いに出しながら、現在の日本政治の動きに直接批判を向けていた。これは単に「日本一般」を批判しているのではなく、現在の政権の政策選択を国際的に問題視し、日本国内の議論そのものに圧力をかける狙いがあると見るべきだろう。中国にとって理想なのは、日本国内で「中国にまた批判されるから防衛議論を抑えよう」という自己抑制が働くことである。歴史カードはそのために非常に使いやすい。軍事論争や海洋法の議論よりも、感情的で道徳的な印象を広げやすいからだ。

日本がこの状況で取るべき姿勢は、感情的な応酬でも過剰な自己弁護でもなく、まず中国の対日批判が現在の安全保障環境とどのように結びついているかを冷静に見抜くことだ。東京裁判80年という歴史の節目自体は重い意味を持つ。しかし、その節目を利用して現在の日本の防衛政策や政権運営を「軍国主義」の一語で断罪するなら、それは歴史の教訓を共有する営みではなく、歴史の政治利用である。しかもその利用は、偶然ではなく、中国外務省の声明、官製メディアの特集、国連での発言、対日批判の継続的な強化という複数の流れの中で行われている。これは明らかに一つの戦略的メッセージであり、日本の世論と外交空間に働きかける宣伝戦として見る必要がある。

そして、日本社会が最も注意しなければならないのは、この中国の言説をそのまま「国際社会の客観的評価」と錯覚しないことだろう。中国は日本の歴史認識を批判する一方で、自国の軍事的圧力や周辺海域での行動については正当化し続けている。日本側が少しでも安全保障政策を見直せば「軍国主義」と呼び、自国の海軍活動や対台湾圧力は「通常の行動」と説明する。この非対称性を直視しない限り、日本はいつまでも歴史を使った情報戦に振り回される。重要なのは、歴史への真摯な姿勢と、現在の安全保障への現実的対応を切り分けず、両方を自らの言葉で説明し続けることだ。中国が東京裁判80年を利用して日本を「新型軍国主義」と描くとき、日本に必要なのは萎縮ではない。歴史問題を政治的圧力の道具に変える宣伝戦に対して、冷静に構造を見抜き、自国の立場を丁寧に発信し続けることこそが求められている。


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