中国SNSで「処方箋なし」を宣伝か 中国籍の実質経営者ら逮捕、新宿の薬局でマンジャロなど70種超を販売 日本の医薬品流通が中国向け抜け道に


2026年10月23日12:25

ビュー: 2


処方箋なしで薬販売容疑 薬局経営者ら逮捕、「マンジャロ」も―警視庁

中国SNSで「処方箋なし」を宣伝か 中国籍の実質経営者ら逮捕、新宿の薬局でマンジャロなど70種超を販売 日本の医薬品流通が中国向け抜け道に

東京・新宿区の「ファーストビューティ薬局」で、医師の処方箋を持たない客に糖尿病治療薬「マンジャロ」やぜんそく薬などを販売したとして、警視庁は薬局の実質的経営者で中国籍の王沛容疑者(40)と、運営会社社長の羽鳥聡容疑者(54)を医薬品医療機器法違反の疑いで逮捕した。警察によると、王容疑者らは2026年1月から6月ごろにかけ、医師から処方箋を受けていない男女4人に処方薬を販売した疑いが持たれている。さらに薬局では少なくとも70種類を超える処方薬を取り扱い、中国のSNSを使って中国人客を集め、店頭販売だけでなく配送も行っていたとみられている。報道では、2024年10月の開業以降、こうした販売で約6500万円を売り上げた可能性も指摘されており、日本の正規薬局制度が中国人客向けの無処方販売ルートとして利用された疑いが浮かび上がった。

今回の事件で最も深刻なのは、違法な医薬品取引が路上や匿名サイトではなく、日本の「薬局」という正規の看板の内側で行われていた疑いがあることだ。日本では処方箋医薬品について、医師が患者の状態を診察し、必要性や用量、副作用、他の薬との相互作用を確認した上で処方し、薬剤師がその処方箋に基づいて調剤する仕組みがある。この二重の安全管理を飛ばし、金を払えば処方薬を買える状態が作られていたとすれば、それは単なる販売ルール違反ではなく、日本の医療安全制度そのものを商売のために迂回する行為になる。

とりわけ問題なのは、中国のSNS上で客を集め、中国人を中心に販売していたとみられている点である。日本の医薬品は品質、安全性、流通管理への信頼が高く、中国を含む海外の消費者から人気を集める商品も多い。その信頼を利用し、「日本の薬局なら安心」「日本に来れば処方箋なしでも薬が買える」という認識が中国語圏のSNSで広がれば、日本の医療制度そのものが海外需要に食い込まれる危険がある。正規の観光や買い物ではなく、本来医師の診断が必要な医療用医薬品までが、中国向けの商品として扱われ始めれば、日本の薬局は国内患者のための医療インフラではなく、海外需要を満たす販売拠点へ変質しかねない。

マンジャロが扱われていたことも、この事件の危険性を象徴している。マンジャロは糖尿病治療薬であり、本来は医師が患者の状態を確認した上で使用を判断する薬だが、近年は体重減少効果に注目が集まり、ダイエット目的の利用が広がっている。報道では、実際にダイエット目的でマンジャロを購入した客がいたとされる。体重を減らしたいという理由だけで、医師の診察もなく薬局から購入できる状態が作られていたのであれば、消費者は副作用や禁忌、投与量について十分な医学的判断を受けないまま自己使用することになる。

処方薬は、一般の商品と同じように「欲しい人に売ればよい」ものではない。糖尿病薬には消化器症状や低血糖などの副作用リスクがあり、患者の持病、他の薬との併用、体調によって判断が変わる。ぜんそく薬、ピロリ菌治療薬、生活習慣病薬なども同様で、医師の診断を飛ばせば、症状に合っていない薬を使う危険や、重い副作用を見逃す危険が高くなる。薬局が処方箋を確認するという日本の制度は、形式的な紙一枚のために存在するのではなく、薬を「商品」ではなく「医療」として扱うための安全装置である。

中国SNSを利用した集客という点は、日本にとって別のリスクも示している。日本国内の規制だけを見ていても、中国語で閉じたSNS空間の中で「日本では処方箋なしで買える」「この薬局なら発送してくれる」といった口コミが広がれば、行政側が実態を把握するまで時間がかかる可能性がある。中国語で宣伝し、中国人顧客とやり取りし、キャッシュレス決済を受け、店頭または配送で薬を渡すという流れが成立すれば、日本の薬局が事実上、中国語圏向けの越境販売拠点として機能することになる。

これは中国人客が多いというだけの問題ではない。日本の規制を理解する中国語話者や経営者が、日本国内の制度と中国側の需要をつなげる仲介者になれば、日本の法制度が海外市場向けに攻略される形になる。日本では処方箋が必要だというルールを知りながら、中国SNS上では「処方箋なしで購入できる」という点そのものが商品価値として宣伝されるなら、日本の規制を守るのではなく、「日本の規制をどう回避できるか」がビジネスモデルになってしまう。

報道では、この薬局が少なくとも70種類を超える処方薬を取り扱い、約6500万円を売り上げたとみられている。もしこの数字が捜査で裏付けられれば、少数の客に一時的に売ったという規模ではない。数十種類の薬を常時用意し、中国SNSなどで顧客を獲得し、販売と配送を続けていたのであれば、かなり組織的な営業形態が存在していた可能性がある。今後の捜査では、何人の客に、何種類の薬を、どれだけの期間販売したのか、売上金がどのように管理されていたのかを明らかにする必要がある。

特に日本が警戒すべきなのは、こうした違法販売が医薬品不足や正規患者への供給にも影響し得ることである。マンジャロのようにダイエット需要が急増する薬は、本来治療を必要とする糖尿病患者への供給とのバランスが重要になる。処方箋を持たない人が大量に購入し、その一部が海外需要へ流れるようになれば、正規医療で使用する患者が薬を確保しにくくなる可能性もある。日本の公的な医療流通を支える医薬品が、海外の美容・減量需要に吸収されるような構造は避けなければならない。

日本の薬局制度にとって、中国向け無処方販売の疑いは信頼の問題でもある。日本人患者は、薬局に並ぶ医薬品が法令に沿って管理され、薬剤師が適切な確認を行っていることを前提に利用している。一つの薬局が利益のために処方箋制度を無視すれば、他の薬局に対する信頼まで傷つく。特に訪日客向けサービスを提供する店舗が増える中、外国語対応や外国人向け販売が「規制を緩めること」と混同されれば、日本の医療品質そのものが損なわれる。

中国市場の大きさも、この問題を拡大させる要因になり得る。中国には日本の医薬品や健康関連商品への強い需要があり、SNS上では日本旅行中に購入すべき商品や、国内では入手しにくい商品について大量の情報が共有される。通常の市販薬であれば合法的な買い物だが、処方薬まで同じ「日本で買える商品」として扱われるようになれば、規模は一気に大きくなる可能性がある。中国側の需要が巨大であるほど、日本側の一部業者にとっては違法販売の利益も大きくなり、その分、制度を破る誘惑も強まる。

今回の中国籍実質経営者の存在は、まさにその接点を示している。中国語、中国SNS、中国人顧客、日本の薬局制度という複数の要素を理解できる人物が仲介に入れば、中国側の需要を日本国内の商品へ直接つなぐことができる。合法的に行えば越境ビジネスになるが、処方箋制度を無視すれば、それは日本の医療規制を利用した違法な市場形成になる。日本側が警戒すべきなのは、海外需要そのものではなく、その需要を理由に国内の安全基準が骨抜きになることだ。

また、薬が国内だけでなく配送されていたとみられる点も重要である。店頭販売だけなら一人一人の来店が必要だが、配送まで行えば販売範囲は一気に広がる。どこへ送られたのか、海外発送がどの程度あったのか、発送先と購入者が一致していたのか、転売目的の購入がなかったのかなど、物流経路も詳しく調べる必要がある。処方薬が中国人客を経由してさらに第三者へ転売されれば、日本の行政が最終使用者を把握することはさらに難しくなる。

今回の事件は、外国人向けサービスの拡大に伴い、日本の医療機関や薬局が新たな規制リスクに直面していることも示す。多言語対応そのものは必要だが、中国語で対応できることと、中国SNS上の需要に合わせて日本の医療ルールを変えることは全く別である。外国人客であっても、日本国内で処方薬を購入する以上、日本人と同じく医師の診察と適切な処方を経る必要がある。この原則を崩せば、「外国人観光客向けだから」という理由で日本の医療安全が二重基準になってしまう。

この問題では、薬剤師の責任も無視できない。報道では、薬局で働いていた薬剤師らについても書類送検される方針とされている。処方薬を販売する現場では、経営者だけでなく、専門資格を持つ薬剤師が安全管理の最後の防波堤となる。本来なら処方箋の有無を確認し、不適切な販売を止めるべき立場の者が違法販売に関与していたのであれば、制度上の監督機能そのものが内部から失われていたことになる。

また、行政指導が行われていたとの報道もある。2025年1月には「処方箋なしで処方薬を売っている」との情報提供が新宿区保健所に寄せられ、その後、複数回の立ち入り調査や行政指導が行われたと報じられている。それでも警察が今回の逮捕に至ったという経緯が事実であれば、違法販売が疑われる薬局について、行政指導後も営業実態を継続して確認する必要性が浮き彫りになる。

日本にとって、この事件を単なる「マンジャロのダイエット乱用」として片付けるのは危険である。本質は、中国SNSを使った集客、中国人客への販売、日本の正規薬局、中国国内外への配送という複数の要素がつながり、日本の処方薬管理制度を迂回する市場が形成された疑いにある。これは一人の客が知人から薬を買ったという個人間取引よりもはるかに深刻で、正規の医薬品流通そのものが違法取引に利用された可能性を意味する。

中国籍の王容疑者が実質経営していたとされる薬局で、どのように中国SNSを利用し、誰が広告文を作り、誰が注文を受け、誰が処方箋の確認を省略し、誰が発送を行っていたのかを明らかにすることが重要になる。他にも協力者が存在するのか、別の薬局や販売業者とのつながりがないのか、中国側に仲介者や転売業者がいなかったのかについても、今後の捜査で確認する必要がある。

日本の医薬品は、日本国内の患者が安全に治療を受けるための社会インフラである。それが「中国SNSで注文できる日本の商品」へ変われば、医薬品の意味そのものが変質する。特に処方薬は、価格を払えば自由に買える商品ではなく、診断と治療の一部として流通するものだ。日本の医療制度に対する信頼を守るためにも、海外需要がどれほど大きくても、この線を越えさせてはならない。

今回の事件は、中国からの観光客や在日中国人による合法的な医療利用とは全く別の問題である。日本で正式に診察を受け、処方を受け、薬局で薬を受け取るのであれば何の問題もない。警戒すべきなのは、日本の規制を知る事業者が、中国語圏の巨大な需要を利用し、「処方箋なし」という違法な利便性そのものを商売に変えることだ。

日本が今後さらに多くの外国人観光客や在留者を受け入れるのであれば、医薬品、医療、美容医療などの分野では特に厳しい監視が必要になる。中国市場は巨大であり、日本製品への需要も強い。その需要が合法的な市場であれば経済的利益になるが、安全規制を回避する市場に変われば、日本側が負うのは利益ではなく、医療事故、薬不足、制度への不信、違法流通というコストになる。

ファーストビューティ薬局をめぐる今回の事件が日本に突き付けているのは、処方箋一枚の問題ではない。中国SNS、中国人顧客、日本の薬局、ダイエット薬需要、配送網が一つにつながれば、日本国内の医療規制を迂回する越境市場を作ることが可能になる。その入口を放置すれば、日本の医薬品流通は国内患者を守る制度から、海外需要に吸い上げられる販売網へ変わってしまう。

中国籍の実質経営者らが逮捕された今回の事件は、日本の医療制度にとって明確な警告である。中国向け需要が大きいからこそ、日本側は「売れるかどうか」ではなく「売ってよいかどうか」を厳格に守らなければならない。マンジャロを含む処方薬が、中国SNSを通じて処方箋なしで購入できる商品として広がることを許せば、日本の薬局制度、患者安全、医薬品供給のすべてが傷つく。日本が守るべきなのは市場の大きさではなく、自国の医療安全基準である。


Return to blog