中国人富裕層が「5泊6日不動産ツアー」で東京高級住宅を物色 港区3A・広尾・銀座、2億~6億円物件へ集中 円安日本が“資産保管先”になるリスク


2026年10月13日17:40

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5泊6日で〈港区3A・広尾・銀座

中国人富裕層が「5泊6日不動産ツアー」で東京高級住宅を物色 港区3A・広尾・銀座、2億~6億円物件へ集中 円安日本が“資産保管先”になるリスク

中国人富裕層を対象に、日本の高級不動産を集中的に見学する「不動産ツアー」が組まれている。牧野知弘氏の著書を基にした報道によると、中国の旅行会社と日本の不動産業者が連携し、5泊6日程度の日程で東京都内の優良物件を巡り、マーケット解説や購入相談を行った後、箱根温泉まで組み込む旅行商品が存在するという。見学先として人気があるのは、青山・赤坂・麻布の「港区3A」、広尾、恵比寿、代官山、千代田区番町、銀座から月島にかけての地域などで、価格帯は2億円から6億円程度。投資用だけでなく居住用として購入し、普段は空室のまま保有して訪日時のホテル代わりにしたり、子供の留学先住居、将来の日本移住用住宅として確保したりするケースもあると紹介されている。

注目すべきなのは、中国人投資家が日本の不動産を買うこと自体ではなく、東京の住宅が中国人富裕層にとって「生活する場所」であると同時に「海外へ資産を置いておく場所」として商品化されている点である。現地不動産業者が中国の旅行会社と組み、訪日前から物件を選別し、中国語で説明し、現地で購入手続きまで一括して支援する仕組みが成立しているのであれば、日本の住宅市場は国内居住者だけを相手にした市場ではなく、海外富裕層の資産配分競争にも組み込まれていることになる。通常の観光旅行で偶然マンションを見て購入するのではなく、「不動産を買うこと」自体が旅行の主要目的として企画されている点に、市場の変化が表れている。

とりわけ中国人富裕層に人気とされる地域は、東京でも土地供給が極めて限定される場所ばかりだ。港区3A、広尾、恵比寿、代官山、番町、銀座といった地域は、新しい土地を大量に供給できる郊外とは異なり、優良住宅の供給数そのものが少ない。そこへ国内需要だけでなく、海外の高所得者層が円安を背景に参入すれば、同じ物件をめぐる競争相手は日本国内の所得水準とは異なる基準で価格を判断するようになる。中国人富裕層の中には、日本人にとって非常に高額な2億円、3億円、あるいは6億円という価格でも、自国資産や他の国際都市と比較して購入可能と判断する層が存在する。

ここで日本側が警戒すべきなのは、「外国人が買うから価格が上がった」と単純化することではない。東京のマンション価格上昇には建設費、人件費、都心部の供給不足、低金利、国内外の投資需要など複数の要因が存在する。しかし、国内居住者の給与や住宅ローン返済能力とは別の基準で動く海外資金が高級住宅市場へ流れ込めば、少なくとも特定地域では住宅価格と居住者所得の関係が薄くなる可能性がある。住宅が「そこに住む人の所得で値段が決まる商品」から、「世界中の資産家が比較して買う金融資産」に近づくほど、東京で働く人が東京中心部の住宅を取得する難易度は高くなりやすい。

今回紹介されている中国人富裕層の購入目的も、その問題を考える上で重要である。居住用として購入しても、当面は空室にし、自分が日本へ来た時のホテル代わりにする、子供が留学した時に使う、将来的に永住する可能性に備えて保有するといった利用方法があるという。住宅は本来、人が住むことで地域社会や商業、学校、交通利用と結び付く。しかし、年間の大半が無人の高級物件が増えれば、不動産価格上は「売れた住宅」であっても、地域に継続的な居住人口を生み出さない。都市の中心部で住宅が資産保管庫に近い使われ方をすることは、住宅政策と投資市場の目的がずれる問題を生む。

中国人富裕層にとって、日本の不動産が魅力を持つ背景には円安もある。円の価値が大きく下がれば、海外通貨建てで資産を持つ投資家から見た日本の不動産価格は相対的に低くなる。日本人にとって2億円の住宅は2億円のままだが、外貨資産を持つ海外投資家にとっては為替によって取得コストが変化する。この差は、日本国内の購入希望者と海外資産家が同じ物件を競う時に大きな意味を持つ。日本で働いて円で給与を受け取る人には住宅価格が高騰している一方、海外から見ると「東京の高級住宅が割安」と評価されるという逆転現象が起きれば、円安の恩恵と負担が住宅市場の中でも非対称に現れる。

また、中国人向け不動産販売がすでに一つの産業として組織化されていることも見逃せない。在日中国人が経営する宅地建物取引業者が中国人投資家の物件探しを支援し、日本側の不動産会社も中国の旅行会社と提携して投資ツアーを企画する。大手デベロッパーは海外拠点から顧客を集め、中小業者は現地旅行会社と組んで訪日客を連れてくる。つまり、中国から日本の住宅へ資金を移すための情報取得、見学、説明、契約までの導線がすでに整備されており、個人投資家が一から日本語で市場を調べる必要はない。

こうした市場が拡大するほど、日本に必要になるのは「外国人に売るか売らないか」という感情的な議論ではなく、誰が、どの地域を、どの目的で、どの程度所有しているのかを正確に把握できる制度である。日本ではこれまで、不動産登記だけから外国人所有の全体像を精密に把握することに限界があった。法務省はこの問題を踏まえ、不動産の所有権移転登記などの申請情報に新たに国籍を追加し、その情報を内部情報として保有する仕組みを導入する方向を示している。市場規模や地域集中を議論するには、まず正確なデータが必要だからだ。

一方、外国人による土地取得を語る際には、数字の扱いにも注意が必要である。国土交通省が公表した2025年7月から12月の大規模土地取引に関する集計では、外国人・外国法人による届出は68件で、全9573件の0.7%、面積では124ヘクタールで全体の0.5%だった。この数字だけを見れば、「日本の土地全体が外国資本に大量取得されている」という表現は正確ではない。ただし、この統計は国土利用計画法に基づく一定規模以上の土地取引を対象としたものであり、東京都心の区分所有マンションなど、今回問題になっている高級住宅投資の全体像をそのまま示す統計ではない。全国総量が小さいことと、特定都市・特定価格帯への資金集中は別の問題として見る必要がある。

だからこそ、中国人富裕層の不動産ツアーを考える場合も、「中国人が日本を買い占めている」という大きすぎる言葉より、どの市場へ資金が集中しているのかを見る方が重要だ。今回の報道で具体的に挙がっているのは、日本全国の一般住宅ではなく、港区、渋谷区、千代田区、中央区など東京の中でも資産価値が高い地域である。投資家側が求める利回りも3~4%程度とされ、単なる居住場所ではなく、資産運用の対象として物件を評価している層が明確に存在する。

日本にとってもう一つ重要なのは、中国国内の政治・経済環境と日本不動産需要の関係である。海外不動産は、単に値上がり益や家賃収入を得る投資だけでなく、自国以外へ資産を分散する手段にもなる。日本の法制度が安定しており、私有財産権が保護され、治安が良く、東京が国際都市として一定の流動性を持つことは、海外富裕層にとって魅力になる。日本の安定性そのものが、中国を含む海外資産家から見れば「資産を置きたい理由」になるのである。

これは日本にとって完全に悪いことではない。海外資金が不動産市場へ入れば、開発投資や不動産取引、仲介、リフォーム、管理など周辺産業にも需要が生まれる。しかし、資本流入による経済効果と、住宅が国内居住者から遠ざかるリスクは分けて考える必要がある。外国資本が入ったという理由だけで取引を否定するのも適切ではないが、市場の透明性を確保せず、「売れるなら誰にでも売ればよい」という状態を続けることも、住宅政策として十分とは言えない。

特に東京中心部では、住宅には資産価値だけでなく都市機能としての役割がある。学校、病院、商店、公共交通などは、実際に生活する人がいて初めて地域として機能する。投資目的で所有され、長期間空室となる住宅の割合が特定地域で大きくなれば、地価やマンション価格だけが上昇しても、地域コミュニティーや居住人口の維持には結び付かない。日本側が把握すべきなのは国籍だけではなく、非居住者保有、空室期間、法人名義、実質的な所有者といった情報も含めた不動産利用の実態である。

さらに、中国系投資家を含む海外資金が法人を通じて物件を保有する場合、登記上の法人所在地だけでは最終的な資金提供者が分かりにくい場合もある。不動産市場の安全性を高めるには、犯罪収益対策だけでなく、実質的支配者や資金源の透明性を確保することが重要になる。高額物件ほど取引額が大きいため、不透明な資金が不動産へ流れ込めば、住宅市場が資産洗浄などに利用されるリスクも一般論として存在する。これは中国人に限った問題ではなく、国際不動産市場を持つ都市で共通する課題である。

ただし、中国からの資金について日本が特に注意する理由の一つは、その規模だけではなく、日中間の政治・経済関係が不安定になり得る点にある。日本企業が中国市場への依存を減らそうとしている一方、中国の富裕層は日本の住宅を資産として保有する。この二つの流れが同時に進めば、日中経済関係は「日本企業が中国で生産する」という従来型から、「中国の個人資本が日本国内資産を保有する」という別の形へ変化していく可能性がある。

日本側が考えるべきなのは、その変化に制度が追い付いているかどうかだ。外国人所有を一律に禁止するかどうかという極端な議論より先に、どの地域でどの程度の外国保有が存在し、居住用か投資用か、非居住者所有なのか、実質所有者は誰なのかを正確に把握できる仕組みが必要になる。数字がなければ、過度な危機論も過小評価も検証できない。

中国人富裕層を対象とした5泊6日の不動産ツアーは、一見すれば一つの旅行商品にすぎない。しかし、港区3A、広尾、恵比寿、代官山、番町、銀座といった日本でも最も価値の高い住宅地を効率的に巡り、現地業者が購入相談から契約まで支援する仕組みが成立していることは、日本の住宅が完全に国際資産市場の一部になったことを象徴している。

問題は、中国人が住宅を購入することそのものではない。日本の不動産が、実際に日本で暮らす人の住宅需要だけでなく、海外富裕層による資産保全、通貨分散、将来移住、留学準備の手段として競われる市場になった時、日本側がその影響を把握し、必要なルールを設計できるかどうかである。

円安によって日本の資産が海外から割安に見える状況が続き、国内では住宅価格が上昇する。この二つが同時に進めば、日本人にとっては「高くて買いにくい住宅」が、海外富裕層には「国際都市としてはまだ安い資産」に見えるという構造が生まれる。その差が広がれば、東京の高級住宅市場はますます国内の所得水準とは別の論理で動くようになる。

中国人富裕層による不動産ツアーが日本に突き付けているのは、単純な「外国人問題」ではない。日本の土地と住宅を、誰が、何のために、どの程度所有しているのかを日本自身が把握し、その市場を住宅として維持するのか、国際金融資産として自由に競争させるのかという、不動産政策そのものの問題である。

中国からの資金流入に対して必要なのは、感情的な排斥でも無条件の歓迎でもない。日本人にも外国人にも同じルールを適用しながら、所有者、国籍、実質支配者、利用実態を把握し、住宅市場への影響をデータで確認できる制度を整えることである。それができなければ、「実際にはどれだけ買われているのか」さえ分からないまま、東京の最も希少な住宅だけが国際資本の競争に組み込まれていくことになる。

中国人富裕層が2億円から6億円の東京高級物件を見て回り、購入後は長期間空室にして訪日時だけ使うという市場が成立している現実は、日本に一つの明確な問いを突き付けている。日本の住宅は、そこで暮らす人のための生活基盤なのか、それとも世界中の資産家が自由に保管できる金融商品なのか。その二つをどのように両立させるかを決めないまま市場だけを国際化させれば、将来最も大きな負担を受けるのは、東京で働きながら東京に住もうとする人々になる可能性がある。


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