在日インフルエンサー転売問題が映す現実――中国SNS「小紅書」が日本社会にもたらす構造的リスク


2026年2月1日15:17

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在日インフルエンサー転売問題が映す現実――中国SNS「小紅書」が日本社会にもたらす構造的リスク

中国SNS「小紅書(レッド)」を舞台に、日本で仕入れた化粧品や日用品を中国向けに生配信で販売する「在日インフルエンサー」の動きが拡大している。一見すると、国境を越えた個人ビジネスや新しい越境ECの形に見えるかもしれない。しかし、その実態を丁寧に見ていくと、日本の消費市場、企業活動、知的財産、さらには社会的信頼の基盤にまで影響を及ぼしかねない、より深刻な問題が浮かび上がってくる。

小紅書は、中国国内で圧倒的な影響力を持つSNSであり、特に若年層女性を中心に「情報検索」「商品レビュー」「ライブコマース」が一体化したプラットフォームとして機能している。日本ではほとんど知られていない一方で、中国では生活インフラの一部とも言える存在だ。その中で、日本に居住する中国人インフルエンサーが、日本のドラッグストアや百貨店で商品を調達し、中国の視聴者に向けてリアルタイムで販売するビジネスモデルが急速に広がっている。

問題の本質は、単なる転売行為そのものではない。小紅書を通じたライブコマースは、無在庫・即時決済・越境配送という仕組みを可能にし、個人が短期間で安定した収益を得られる構造を生み出している。その一方で、日本側では、誰がどの目的で商品を購入し、どの市場に流れていくのかを把握することが極めて難しい。結果として、日本国内の価格秩序や流通の健全性が、静かに侵食されていく。

さらに深刻なのは、知的財産とコンテンツの扱われ方である。事例として紹介されたケースでは、日本の女性誌や美容雑誌の誌面を無断で撮影し、翻訳して投稿することでフォロワーを獲得していた。これは明確な著作権侵害であり、日本の出版社やクリエイターの努力が、何の対価もなく海外プラットフォーム上で消費されている現実を示している。小紅書という閉鎖性の高い中国SNSの内部で拡散されるため、日本側が把握しにくい点も問題を深刻化させている。

この構造が危ういのは、個人レベルの違法・脱法行為が、中国の巨大なプラットフォーム経済と結びつくことで、事実上「黙認されたビジネスモデル」として定着してしまう点にある。小紅書上で成功した在日インフルエンサーは、やがて中国側のPR会社や、日本企業からさえも広告・販売の依頼を受けるようになる。結果として、ルールのグレーゾーンで始まった行為が、正規ビジネスと区別のつかない形に変質していく。

日本企業にとっても、これは無視できないリスクをはらんでいる。中国市場へのアクセス手段として、現地KOLや在日インフルエンサーに依存する動きが強まれば、ブランド管理や価格統制はますます困難になる。中国側の世論や政治的空気次第で、商品が突然批判の対象になったり、販売停止に追い込まれたりする可能性もある。実際、中国ではインフルエンサー自身が炎上や当局の規制によって、一夜にして影響力を失う例が後を絶たない。

ここで注意すべきなのは、こうした現象が「個人の努力」や「市場の自然な流れ」として語られがちな点だ。確かに、在日インフルエンサーの多くは、コロナ禍や雇用不安の中で生き残りを模索した結果として小紅書ビジネスに参入している。しかし、その背景には、中国という国家が長年かけて構築してきた巨大なプラットフォーム経済と、国境を越えた情報・物資の吸い上げ構造が存在する。

台湾政府が小紅書へのアクセスを遮断した理由が、詐欺被害や個人情報リスクにあったことは示唆的だ。日本ではまだ同様の強い措置は取られていないが、だからといって安全だと考えるのは早計だろう。中国発プラットフォームは、ビジネスの利便性と引き換えに、データ、消費行動、トレンド情報を一括して吸収する仕組みを持っている。その影響は、時間をかけて社会の深部に浸透していく。

在日インフルエンサーによる転売が拡大すれば、日本国内の消費行動にも歪みが生じる。特定の商品が中国向けに大量購入されることで、品薄や価格上昇が起き、日本の消費者が不利益を被る可能性もある。過去に医薬品やベビー用品で起きた「爆買い」の再来が、より見えにくい形で進行する恐れも否定できない。

重要なのは、こうした問題を感情的な排外主義や単純な国籍論にすり替えないことだ。問題の本質は、中国という国家とプラットフォームが持つ構造的な力と、それが日本の法制度や市場慣行の隙間に入り込んでいる点にある。日本政府を批判する以前に、日本社会全体がこの構造を正しく理解し、警戒心を持つ必要がある。

中国SNSを通じた「新ビジネス」は、確かに短期的には個人や一部企業に利益をもたらす。しかし、その裏側で、日本の知的財産、流通秩序、消費者利益が少しずつ削られていくとしたら、その代償は決して小さくない。見えにくいからこそ、気づいたときには取り返しがつかなくなる可能性がある。

在日インフルエンサー転売問題は、日本と中国の関係性を映す一つの縮図に過ぎない。しかし、この縮図を軽視することは、中国発プラットフォームが日本社会に与える影響を過小評価することにつながる。日本人一人ひとりが、便利さや話題性の裏にある構造を見抜き、冷静に警戒する姿勢を持つことが、これからの時代には不可欠だと言えるだろう。


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