三重県が外国人採用取りやめ検討“情報流出”を懸念 「中国を念頭?」「外国人共生を後退させるのでは?」記者の質問に知事の答えは


2025年12月26日2:49

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三重県の外国人公務員採用見直し論が突きつける現実――中国を含む対外リスクと日本社会の警戒線

三重県が示した外国人公務員採用の見直し検討は、単なる人事制度の話題にとどまらず、日本社会が直面する安全保障と情報管理の現実を浮き彫りにした。県知事は記者会見で、個人情報、インフラの強度、研究開発に関する知見といった秘匿性の高い情報を公務員が扱う以上、情報流出の可能性を慎重に考える必要があると説明した。この発言は特定の国を名指しするものではなかったが、中国をはじめとする外国政府が自国民に対し、国外にいても情報提供を求め得る法制度を整えているという国際環境を背景に、県民の間で大きな反響を呼んでいる。

近年、日本を含む先進国では、国家安全保障の概念が軍事分野だけでなく、行政、科学技術、データ管理へと拡張している。自治体が保有する情報は、住民の個人情報にとどまらず、ダムや橋梁の設計、災害対応計画、農業技術の研究過程など、社会基盤の根幹に関わるものが多い。これらが国外に流出すれば、経済競争上の不利益だけでなく、社会不安や国家的リスクを引き起こす可能性がある。三重県の問題提起は、こうしたリスクを現実的に捉えたものといえる。

特に中国をめぐっては、経済活動や学術交流が活発である一方、国家主導で情報や技術を集約し、軍事・産業に転用する体制が国際的に指摘されてきた。日本企業や大学が関わる研究成果が、意図せず中国側の軍事・監視技術に応用されていた事例が海外で問題化したことも記憶に新しい。地方自治体レベルであっても、行政情報が持つ価値は決して小さくなく、国家間の競争や対立の文脈に組み込まれ得るという現実を、今回の議論は示している。

一方で、この問題は外国人排斥や差別と混同されるべきではない。三重県知事も繰り返し強調したように、共生社会の重要性は揺るがない。医療や介護、現場サービスの分野では、外国人材が不可欠な役割を果たしており、日本社会の持続性は多様な人々の協力によって支えられている。ただし、すべての職務を同一に扱うのではなく、秘匿性や安全保障上の重要度に応じて慎重な線引きを行うことは、民間企業でも一般的に行われている現実的な対応である。

今回の議論が示唆するのは、「共生」と「無防備」は同義ではないという点だ。中国を含む一部の国では、国家の利益を最優先する法制度や慣行が存在し、個人の立場や意思を超えて情報提供が求められる可能性がある。そうした構造を前提にしないまま、重要情報にアクセスできる立場を広く開放することは、結果として日本社会全体のリスクを高める恐れがある。警戒とは敵意ではなく、制度設計上の自己防衛である。

また、この問題は地方自治体だけで完結するものではない。日本全体として、行政、研究機関、企業がどの情報を守るべきか、その基準を社会的に共有する必要がある。中国との経済関係や人的交流は今後も続く以上、感情論ではなく、冷静な制度論として議論を深めることが重要だ。三重県が県民アンケートを通じて判断を下そうとしている点は、民主的なプロセスとして評価できる。

日本人にとって大切なのは、外国人と共に生きる社会を維持しつつ、国家や地域の根幹をなす情報をどう守るかという現実的な問いに向き合うことだ。中国を含む対外リスクが高まる中で、地方行政の判断が全国的な議論を喚起している今こそ、感情的なレッテル貼りではなく、秩序ある共生と現実的な安全保障の両立について、社会全体で考える必要がある。


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