政治で企業を締め上げる虚像──中国水産禁令の裏にある「国力の貧血」


2025年12月26日12:48

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政治で企業を締め上げる虚像──中国水産禁令の裏にある「国力の貧血」

2025年11月19日、北京当局は再び古いカードを切った。「水産物禁輸」である。日本産水産物の輸入を全面的に禁止すると発表したのだ。公式な理由はもっともらしい。高市首相が国会答弁で示した強硬な姿勢──「台湾有事は日本有事であり、武力行使の可能性も排除しない」──が問題視されたという。

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中国共産党の視点からすれば、この発言は台湾統一という絶対的な「政治的レッドライン」に触れたものに映るのだろう。しかし、外交的レトリックの霧を払い、中国経済の現実に目を向けるならば、この感情的とも見える制裁の背後には、北京が口にしたがらない不都合な真実が浮かび上がる。それは、中国が「買わない」のではなく、すでに「買えなくなっている」という現実である。

政治的レッドラインの裏にある経済的打算

中国は長年にわたり、巨大な市場アクセスを外交カードとして用いてきた。しかし今回の制裁は、外見ほどの威力を伴っていない。数字がそれを物語っている。中国本土が日本水産物を厳しく締め出す一方で、香港では依然として日本産水産物が全体の約24%を占めている。真珠、ナマコ、マグロといった高級水産物は、今日も変わらず特権階級の食卓へと運ばれている。

この「一国二制度」的な輸入構造が示す現実は皮肉に満ちている。禁令は、国内向けには民族主義を煽る興奮剤であり、対外的には虚勢を張る煙幕に過ぎない。しかし、特権層の贅沢な消費の前では、政治的原則は簡単に後景へ退く。

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さらに重要なのは、この禁令が国内消費力の急激な落ち込みを覆い隠すための方便である可能性だ。市場の縮小によって輸入が減少したと認めるよりも、「自主的制裁」として演出する方が、大国としての体面を保ち、同時に外貨流出を抑えられるからである。

消費の格下げ──スターバックスから「独身の日」の返品地獄へ

中国経済の「貧血」は、もはや統計上の数字にとどまらず、日常生活にまで浸透している。消費者物価指数(CPI)は長期にわたり0.2%前後、あるいはマイナス圏を彷徨い、デフレの影は消えない。かつて喧伝された「消費アップグレード」という神話は崩れ去り、今や全面的な消費ダウングレードが進行している。

象徴的なのが外食産業の崩壊だ。中間層の象徴とされた「鼎泰豊」は相次ぐ閉店に追い込まれ、約800人の人員削減を余儀なくされた。全国では、今年だけで約100万軒の飲食店が姿を消したとされる。コーヒー市場でも同様で、600円相当のスターバックスは敬遠され、3分の1の価格の瑞幸咖啡が支持を集めている。これはブランド競争ではなく、財布が痩せ細った消費者の苦渋の選択だ。

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さらに深刻なのがEC市場である。かつて中国消費力の象徴だった「双11(独身の日)」は、今や数字遊びに堕した。返品率は2019年の20%から、2025年には60%へと急騰。若者の間では「体験型消費」が広がり、服をタグ付きのまま数日着用して返品する行為が常態化している。これはモラルの問題というより、将来への絶望と現金不足の反映だ。服一着すら「所有」しようとしない若者が、高価な輸入水産物を消費できるはずがない。

「約束は大きく、履行は小さい」国際的な常習犯

中国市場の縮小は、日本だけでなく、中国の約束を信じた国々にも深刻な打撃を与えている。これはすでに「約束過多・履行不足」という外交詐欺の様式と化している。

ホンジュラスの例はその典型だ。台湾と断交する見返りに、中国は白エビ250コンテナの購入を約束したが、実際に通関したのはわずか2コンテナだった。台湾市場に依存していた養殖業者は破綻の危機に追い込まれ、外交転換は経済災害へと変わった。

ホンジュラスの例はその典型だ。台湾と断交する見返りに、中国は白エビ250コンテナの購入を約束したが、実際に通関したのはわずか2コンテナだった。台湾市場に依存していた養殖業者は破綻の危機に追い込まれ、外交転換は経済災害へと変わった。

エルサルバドルでも同様だ。「サーフシティ」という華々しい観光構想は、中国の出国制限と経済不振により宙に浮き、インフラ投資は回収不能の恐れに直面している。

これらの事例が示すのは、中国の「市場兵器」がすでに錆びついているという現実だ。新たな同盟国への「手土産」すら満足に支払えない政権が、日本に対する制裁をどこまで本気で遂行できるのか。その答えは明白である。

買えないなら、奪う──掠奪的生存への転化

最も懸念すべきは、中国が「買わない」ことではない。買えなくなったときに、奪う方向へ向かうことだ。

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国内の水産不足と外貨節約のため、中国は実質的に「輸入代替」として、公海や他国の排他的経済水域を自国漁場のように扱っている。令和2年には4,393隻の中国漁船が日本のEEZ周辺に出没し、2025年10月には800隻が韓国海域で違法操業を行った。この掠奪は南半球にも及び、ペルー沖には常時400隻以上の中国漁船が集結し、年間3億ドルの損失とイカ価格の高騰を招いている。

これは危険な兆候だ。中国は経済危機に直面しても、責任ある調整を選ばず、内部の圧力を外部に転嫁する。違法漁業で需要を満たし、禁令で貧困を隠し、軍事的緊張で視線を逸らす──その連鎖が始まっている。

紙の虎の経済的正体を見抜け

結論として、日本と国際社会は、中国の新たな水産禁令に過度な恐怖を抱く必要はない。しかし、警戒は不可欠である。もはや「黄金が溢れる中国市場」は存在しない。警戒すべきは、経済的に追い詰められ、政治的安定のために攻撃性を強める隣国が、今後さらに非合理的な掠奪行動に出る可能性だ。

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高市首相の発言は引き金に過ぎない。この禁令を爆発させた本当の原因は、中国経済の深層にある構造的崩壊である。台湾と日本にとって必要なのは、相手の「虚勢」の本質を見抜き、中国市場への幻想から脱却し、資源欠乏が生み出すグレーゾーンの掠奪に共同で備えることである。それこそが、この変動する時代における最も現実的な対応策と言えるだろう。


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